文楽の番付を飾る 勘亭流文字の制作工房を見学

講師竃k浦染工場 北浦皓弌氏
日時:2000年11月17日(金) 午後7時〜10時

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北浦さんの講座は言葉よりも先に筆が走ります。
ワープロで書いた文字は記号です。 
 今筆で「田中」と書きましたけど、これは入れ替えて「中田」とするわけにはいきまへんで。手書きの文字は次に来る文字によってバランスがちがうんです。
これがワープロで書いた文字やったらそんなことはありません。どっちが上でもおんなじです。これはワープロやグラフィックデザイナーの書いたものは文字ではなくて記号やからです。

 明治、大正、昭和時代そして現在の「招き」とよばれる演目と配役の看板の文字を見せていただきました。勘亭流の文字で書かれた見事な招きだけれど、誰が書いたものかはわからないそうです。筆者はサインを入れる習慣がなかったからです。北浦さんは入れるようにしておられるそうです。勘亭流で書かれたものなので基本は同じですが、規定はないので書く人の好みがでます。あっさりしたもの、線の太めのものさまざまです。きっちり詰まった画面に装飾の多い文字が並んでいるのにうるさくないのはさすがこのための書体。

良うしようと思たら、チクってやらなあきません
 文楽劇場から招きの原稿をもらったらまず横800o縦550oの1oの方眼紙に割付けの線を引きます。
これだけで1日かかります。原稿が間違っていることもあるので、1回めペンで書いてみます。次に新しい紙に筆で書きます。この上にガラスを置いて画用紙を重ねてやっと清書します。都合3回書くわけです。
 文楽劇場の担当の人は準公務員です。特に文楽好きではありません。来年はオペラ担当になってるかもしれない人です。とにかく文字の位置を揃えたい。文字の大きさを揃えたい。そんなことばっかりうるさく言って役者の名前をまちがって書いてきたりする。
たった3p足らずのスペースに7文字いれなあかんとこもあります。仕事やから注文とおりせなあきません。
私は抵抗しましたよ。諦めてペンで書いた人もいてるけど、私は筆で書きました。

 私が言いたいのは、字は記号ではない、ということです。大小あって字なんです。おいしくて栄養があればいいのならクルクル寿司でいい。だけどあれはエサなんです。エサと食事の違いが、記号と文字の違いなんです。そんなことをしてたら文化はすたれてしまいます。それを止めるにはどうするか。厳しいお客になることです。紙屋治兵衛の店ののれんの字が左から右へと書かれていたりする。お客さんが読めないからと簡単な字を書くように言ってくる。
 文楽を愛するならチクって良くしていかなあきません。そうでないとダラけていってしまいます。
 

見比べてください。
右端は勘亭流でバランス良く
書かれた文字です。
真中は全ての文字の大きさを
同じにしたもの、そして左端は
ワープロの勘亭流のフォントで
書いたものです。

                         
勘亭流の字は桝目からはみ出すことのないように書くものです。きつくはねたり、大きくはらったりすることはありません。大の字の最後の1画は止めて書きます。文字の最後のはねは上から下へおろして書くんです。筆をねかして書いたら品のない字になってしまう。水墨画の世界で「四君子10年」といいます。
梅、菊、蘭、竹を10年間稽古したら描けるようになるということです。私は千字文を20回書きました。
今日各々皆さんの名前を書いたのは、家に帰って書いてみてくださいということです。自分の名前を書くことが一番身近でしょう。ぜひ来年の年賀状を書いてみてください



『勘亭流』
 歌舞伎で、看板や番付などの文字を書くときに用いられる特殊な書体をいう。1779年(安永8年)、江戸の書道家岡崎屋観六が中村座の狂言名題を書き、勘亭と署名したのがはじまりで、関西にも伝わり、今日でも歌舞伎を象徴する文字として広くポスターの字などに使われている。
線が太く、字に丸みがあり、筆法も縁起をかついで「内へはいる」書き方をするのが特徴である。

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