■ 文楽名作鑑賞 ■


□ 伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)

  大火に類焼した八百屋久兵衛の娘お七は、避難先の寺小姓、吉三郎と恋仲になってしまう。店の再建なって別れた後も思いはつのるばかりです。一方、吉三郎は紛失の剣のために今宵限りの命となり、こっそりお七に暇を告げに来ます。下女のお杉が吉三郎を縁の下に忍ばせると、上の座敷では店の借金のため萬屋武兵衛に嫁いでくれるよう、お七の両親が娘を説得しています。  吉三郎が立ち去った後、残された書置で恋人の危急を知ったお七は、その命を助ける ために吉三郎が必要としている天国の剣を武兵衛のもとから盗み出そうと決意します。  江戸の町では九つの鐘を合図に木戸が閉められ、以後の通行は禁じられています。それではたとえ剣が手に入っても吉三郎に渡すことができないと思ったお七は、火刑を覚悟で火事でもないのに火の見櫓の半鐘を打って木戸を開かせた。そのすきにお杉が天国の剣を盗み出して、吉三郎のもとへ届けるのでした。

櫓のお七      
雪の夜。
"思う男に別れては所詮生きてはいぬ体、
炭にもなれ灰ともなれ"
と、振袖姿のお七は、滑るはしごを踏みしめる…



□ 染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)

 「お染久松」の心中事件を課題とする世話物です。  商家の娘お染は山家屋清兵衛との結婚が決まっていましたが、お染は以前から店の丁稚 ・久松と相思相愛の仲でした。山家屋への嫁入りは近づいてくるし、その上番頭・善六の横恋慕。大晦日の夜、難儀続きに久松は善六を殺して心中する夢を見ます。不思議なことにお染も同じ夢を見ていました。2人は死ぬことばかりを考えていました。しかし、お染を死なせては主家に申し訳が立ちません。久松は、お染を結婚させ、自分は死んで詫びようと考えます。ところが、お染は久松の子を宿していました。これでは清兵衛とは結婚できません。心配して故郷から久松を連れ戻しに来た父・久作やお染の両親の親心を知りながら、もはや二人に残された道は心中しかありませんでした。




□ 御所桜堀川夜討(ごしょざくらほりかわようち)

 源義経は正室の卿の君が平家一族平時忠の息女であったため、頼朝から逆心を抱くものと疑われ、卿の君の首を討って鎌倉へ忠誠を誓えと度々催促を受けていました。  妊娠している卿の君は乳人の侍従太郎の館で静養中です。そこへ姫の腰元信夫(しのぶ) の母おわさがご機嫌伺いにやってきました。折しも堀川御所から弁慶が上使として訪れます。侍従太郎は信夫と母おわさに鎌倉からの難題を告げて、年恰好の似た信夫を卿の君の身変りにさせてくれまいかと頼みます。主君の為に喜んで死のうという信夫。が、おわさは顔も名も知らぬが、信夫を父親に会わせるまではお役に立てられないと拒みます。偽り者と怒る侍従太郎に紅の振袖の片袖を見せ、不思議な縁の昔話を語ります。  18年前、播州の本陣の娘であったおわさは泊り客の稚児と一夜を契りました。あわただしい別れに名前も聞かず、手元に残った男の振袖の片袖を唯一の手掛りに、その時宿した娘信夫とともに、夫を探しているというのです。  これを立ち聞きしていた弁慶は障子越しに信夫を刺し、半狂乱になったおわさに、下に着ていた紅の振袖を見せました。おわさの探していた信夫の父親とは武蔵坊弁慶だったのです。おわさの話から初めて自分に娘がいたことを知った弁慶は喜ぶ間もなく娘をわが手 で殺し、生涯でたった一度の涙を流すのでした。  侍従太郎は、信夫の首が本当に卿の君のものと思わせるため、乳人である自分の首も添えて鎌倉殿へ渡すようにと自害します。弁慶は二つの首を抱いて、堀川御所へと帰っていくのでした。




□ 傾城阿波の鳴門(けいせいあわのなると)

 阿波徳島の城主玉木家を勘当され、帰参を願う阿波十郎兵衛は、紛失した家宝国次の刀の議を命じられます。十郎兵衛は名を銀次郎と変えて盗賊の仲間に入り、女房お弓と共に大坂の玉造に住家を求め、日夜刀の行方を追って辛苦しています。  そこへやってきたのは巡礼の娘おつる。幼い時に別れた両親を捜してはるばる阿波の鳴尾から巡礼して歩いていると語ります。お弓はおつるの身の上話にはっと胸を突かれます。 おつるこそ故郷に残してきた我が娘だったのです。切々と両親への思慕を訴えるおつるに、今すぐ抱きしめたい思いにかられながらも、盗賊の罪が娘に及ぶことを恐れたお弓は親子の名乗りをすることができません。母の面影も知らぬおつるにもなぜかお弓が母のように懐かしく感じられて、このままここにおいてくれと頼みますが、泣く泣くおつるを追い返します。しかし、今別れてはもう会えぬと思い直したお弓は、急いでおつるの後を追います。入れ違いにおつるを伴って帰ってきたのは十郎兵衛。わが子とは知るはずもなく、おつるが金を持っているのに目をつけ、その金を貸してくれと頼みます。しかし、おびえたおつるが声をあげたので慌てて口をふさいだため、おつるは窒息死してしまいます。  おつるを見失い、力無く戻ってきたお弓はこの有様を見て、おつるが捜し求めた両親に会いながら親子の名乗りもされずに追い返され、実の父親に殺されてしまった不幸な娘の身の上を思いやって涙にくれます。十郎兵衛も我娘を殺してしまったことを知ると、後悔の涙にむせぶのでした。  迫る捕手。捕手を追い散らすと、おつるの死骸もろともわが家に火を放ち、夫婦は何処ともなく落ちのびていくのでした。



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