大阪の民衆文化・河内音頭の正体を探る
講師紹介:音頭研究家 村井市郎氏 大正14年生まれ。昭和25年、大阪大学理学部(旧制)卒業。25年〜60年に大阪府立天王寺高等学校教諭(数学科)勤務。在職中の昭和51年に、郷土史研究クラブを担当したのがきっかけで、河内の音頭の調査研究を始め、徐々に活動も拡がって、江河泉州音頭の研究成果を踏まえての講演・執筆・企画等、啓蒙・振興のための活動も。現、密教図像学会員。日本民俗音楽学会員。 著書:八尾市役所市長公室広報課発行『河内の音頭 いまむかし』他 ≪A≫ 河内音頭の主流(ヨホホイホイ)の変遷 (1) 河内音頭の元節(通称:交野節) ・ 起源は定かでないが、江戸時代から後期に移る頃か?! ・ 原則として定型詩:七七○七五サ七五△の旋律の反復。(サはコラとも) ・ 一と節が上の句七七と下の句七五七五の二部分に切れ、切れ目に音頭取りはヨホホイホイと掛け声を、続いて踊り子がアーヤレコラセーードッコイセエと《切りの囃し》を入れる。次いで下の句が唄われ、一と節終れれば踊り子はソラヨイトコサノサーヨイヤサッサーなどと《落としの囃し》を入れる。 ・ 毎一と節の、上の句はアェの発声で出し、下の句はサェの発声で出す。 ・ 歌詩は、叙情詩的な《流し》叙事詩的な《口説き》がある。 (2) 本来の河内音頭(別名:亀一流の交野節、歌亀節。 河内音頭の本節とも言う) ・ 明治初年頃、茨田郡野口村の初代の歌亀(通称、芸名、本名:中脇久七)が交野節の取り口に工夫。その定型を基調としつつもそれにこだわらず、どんな字余りや句余り等も自在に読み込む変唱法。時には上と下に切れぬ一と節もある。 ・ 義太夫の丸本も使用して、座敷音頭用に開発。また盆踊りにも起用。 (3)先代の河内音頭(一名:平野節または平野音頭) ・ 大正10年頃より大阪市平野の音頭取り初音家太三丸(本名:倉山太三郎)を初め、初音家栄太郎、初音家宇志丸らにより、本節を元に一と味違う節。 ・ 下の句の出にサェの発声(半拍)が無い故、次の切りの囃しまで裏が出る。 ・ 返し節(アン節とも。栄太郎師の安出。太三丸師は余り使わぬ)の使用。 ・ 七七○七五サ七五アン七五サ七五△を、標準的な基本型として自由展開 (4)現代の河内音頭(旧称:浪曲音頭) ・ 昭和21年頃、中河内郡加美村正覚寺の、初代の初音家源氏丸(本名:田中源太郎)により、在来の平野節を主な基盤とし、浪曲のアンガラ節の調子(スウィングのリズムに相当)にそれを乗せ替え、浪曲も援用して編み出された。 ・ 従来の音頭との著しい相違は、一小節当たりの、したがって、同一の文言に対する、拍数が二倍となる。故に踊りの振りも、二倍となって忙しく感ずる。 ・ 当初は穏やかなテンポだったが、昭和三十年代中頃からいわゆる「鉄砲節」の流行によりやや早間となり、名称も浪曲音頭から河内音頭へと漸次かわる。 ・ 同四十年代にはエレキギターの普及と浪曲師参入の影響で、更に同五十年代からは、中南米等のリズム音楽や津軽三味線等の影響で、太鼓や三味線のバチ捌きもナウくなり、シンセサイザーやその他洋楽器を伴奏に使う者も出るなど、音楽性豊かな楽しい芸能に成長して、今日に及んでいる。 右上へ → |
≪B≫主流以外の「河内音頭」 (1)改良節河内音頭 ・ 明治26年を富田林の初代岩井梅吉が、江州音頭より祭文節と役節を取り除き平節ばかりをアレンジして改作。更に昭和初期頃再び整理改良。 (2)丹南・錦部(にしごり)の切り音頭 ・ 起源不明(南北朝頃よりと言うのは単なる伝説)。多分近世より、きざみ口調で一と節が七七/七七○七七/七七△の口説き音頭。昭和戦前に一時河内音頭へ。 (3)八尾の流し節 ・ 数百年前、八尾地蔵で有名な常光寺の、再建時の木遣り音頭が元と伝えられる。 ・ 一と節が上と下の二句から成り、七五○七五△七七○七五△の古風な音頭。 ・ 古来、信仰団体の地蔵講が伝承し、戦後に「流し節正調河内音頭保存会」発足。 ≪C≫現代の河内音頭の特色 (1)河内音頭は、いわゆる『民謡』か? ・ 本来唄い物と語り物の折衷芸能(詠み物)で、いわば民謡と浪曲の中間芸能。 ・ 特定の歌詞と言うものはなく何を詠むのも自由。 ・ 節も決まっているようで決まっていない。決まっているのは基本リズムと囃しくらい。 (2)音頭一席の構成 ・ 一応の原則:掛け合いまた序奏、前口上、枕、外題付け、本題、ばらし、結びの口上の順に演じる。 (3)音頭と節の構造 ・ 歌詞の基本的標準的な一下り(一行)の字数は、七五調か七七調が唄い易い。ただし、随所に字余り等を作って、口調の変化の面白味をも狙う。 ・ 一と節が原則的には、上の句と下の句の二部分に切れ、その切れ目に《切り》の囃しを、一と節の終わりには《落とし》の囃しを踊り子(囃し子)が入れる。切りの囃しを呼ぶ合図の掛け声がヨホホイホイ。一と節を上と下に切らぬ事もある。 (4)節付け ・ 単調な定型の無駄な反復を避け、各所の文句に叶った節を用いるように配慮。 ・ 下の句の長い歌詞の中では、良い節、聞かせる節の間は、継ぎ節、捨て節でつなぎ、良い節の効果を高める工夫もし、変化に富む節付けを凝らす。 ・ 節の付かない科白(せりふ、啖呵ともいう)が入ることも。要するに何でも有り。 ・ 聞かせるための舞台音頭と盆踊り用の櫓音頭(座敷音頭と踊り音頭)がある。 ・ 節付けの工夫のしどころが、音頭の聞きどころ、楽しみどころ! | ||
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